2025年9月、市街地でのクマ駆除を可能にする「緊急銃猟制度」がついに施行されました。
しかし、北海道では9月12日時点で羅臼町116件、札幌市114件の出没が記録されるなど、依然として深刻な状況が続いています。
なぜ装備と技術を持つ自衛隊は出動できないのか、新制度の効果と限界を検証します。

2025年の深刻な現状:各地で相次ぐクマ出没
北海道の出没状況
2025年の北海道では、記録的なペースでクマ出没が続いています。
- 札幌市:114件の目撃・出没情報(8月31日時点)
- 羅臼町:116件の出没情報(9月12日時点)
- 千歳市:新千歳空港インターチェンジ付近でも目撃
これらの数字は前年同期を大幅に上回り、市街地への侵入も常態化しています。
人的被害の深刻化
2025年8月には北海道羅臼岳で登山者がヒグマに襲われ死亡する事故も発生しており、人身被害のリスクは年々高まっています。
画期的な法改正:緊急銃猟制度の施行
制度の概要
2025年9月1日、改正鳥獣保護管理法が施行され、「緊急銃猟制度」がスタートしました。
この制度により、以下の4条件を満たせば市街地での発砲が可能になりました:
- クマが人の日常生活圏に侵入している、または侵入リスクが高い
- 緊急性がある
- 迅速な捕獲手段が他にない
- 人に弾丸が到達する恐れがない
自治体の対応
北海道は市町村支援として2900万円の補正予算を計上し、緊急銃猟の実施体制整備を支援しています。
岩手県も約500万円の関連予算を確保するなど、全国的な取り組みが始まっています。
なぜ自衛隊は今も駆除できないのか
法的制約の現実
2025年時点でも、自衛隊によるクマ駆除の法的権限は一切ありません。
鳥獣保護管理法では、有害鳥獣駆除は都道府県知事の許可を受けた者のみが実施可能で、自衛隊はこの許可対象外です。
自衛隊法における武器使用権限は国防・治安維持に限定されており、野生動物対処は想定されていません。
警察も同様の制約
実は警察も同じ制約を抱えています。
北海道警察は「クマの生態知識や猟銃使用経験がない」として駆除業務を担えないと明言しています。
深刻化するハンター不足
現場の危機的状況
2025年現在、ハンター依存の駆除体制が限界を迎えています。
- 高齢化の進行:危険なクマ駆除に対応できる人材の急速な減少
- 報酬の不適正:命がけの作業に見合わない低い報酬体系
- 法的責任への不安:発砲後の行政処分リスクへの懸念
猟友会の苦境
北海道猟友会千歳支部では、75歳の支部長が最前線に立つという現実があります。
市街地では発砲できないため、クマ撃退スプレーのみで対応せざるを得ない状況も発生しています。
制度と現実のギャップ
緊急銃猟制度の課題
新制度施行から2週間が経過した2025年9月中旬時点で、早くも課題が浮上しています。
経験不足の問題:「経験値が高くて何度もクマを撃った経験がないと市街地での発砲は困難」との専門家指摘。
責任の所在:警察庁は「建物損害があってもハンターの行政処分は不適当」との通達を出しましたが、現場の不安は払拭されていません。
無許可駆除事件も発生
2025年9月4日には札幌市南区のゴルフ場で、シカ駆除のハンターが無許可でクマを駆除する事件も発生しており、制度の隙間を突いた問題も表面化しています。
新たな解決策の模索
ガバメントハンター構想
ハンター不足を受け、行政職員として専門技術者を雇用する「ガバメントハンター」制度の導入を検討する自治体が増えています。
自衛隊活用論の高まり
専門家の間では**「自衛隊の狙撃技術と装備を活用すべき」**との議論が活発化していますが、現行法制度下では実現困難な状況です。
今後の課題と展望
制度改革の必要性
2025年の緊急銃猟制度施行は第一歩ですが、根本的な解決には至っていません。
今後必要な取り組み:
- ハンター人材の計画的育成
- 公的駆除機関の設立検討
- 自衛隊活用に向けた法制度見直し
- 予防的な生息地管理の強化
技術革新への期待
AI監視システムやドローン技術を活用した早期発見・追い払いシステムの導入も検討されており、駆除に依存しない対策の充実が急務です。
まとめ:変わる制度、変わらない現実
2025年9月の緊急銃猟制度施行により、法的には市街地でのクマ駆除が可能になりました。
しかし、ハンター不足、経験不足、責任問題という構造的課題は解決されておらず、自衛隊の直接参加も依然として法的に不可能です。
北海道だけで年間200件を超えるクマ出没が記録される中、民間ハンター依存の限界は明らかです。
真の解決には、公的機関の役割拡大と法制度の抜本的見直しが不可欠でしょう。