妊娠の喜びを突然奪われた一家。
散歩中に車にはねられて母は命を落とし、緊急帝王切開で誕生した赤ちゃんも重い障害を負った――。
愛知県一宮市の悲劇から、法制度の“限界”が浮き彫りになった。
痛みに向き合う遺族、今も受け止められぬ「娘の命の重さ」。
最新の動向、法的課題、署名活動の背景を、信頼できる情報だけをもとに伝えます。
発生日時・場所、関係者
2025年5月21日、愛知県一宮市の静かな住宅街の市道で、当時妊娠9カ月だった研谷（とぎたに）沙也香さん（31歳）が後ろから来た車にはねられた。
出産を控えた日課の散歩の途中、家族が今か今かと待ちわびていた“日常”が一瞬で奪われる瞬間だった。
事故から約1時間半後、救急搬送先の病院で緊急帝王切開手術が行われ、長女・日七未（ひなみ）ちゃんが誕生した。
運転していたのは、同市在住の50歳女性。
無職で、過失運転致死罪（自動車運転死傷行為処罰法違反）で名古屋地検一宮支部が6月に起訴した。
事件の惨状と今
沙也香さんは頭を強く打ち、救命処置が尽くされたにもかかわらず、2日後に帰らぬ人となった。
一方、帝王切開で生まれた日七未ちゃんは、酸素が長く絶たれた影響で脳に深刻なダメージを負い、現在も意識が戻らず人工呼吸器を必要とする状態が続いている。
医師からは「現状から大きく回復する見込みは難しい」という厳しい説明を受けている。
遺族の言葉と社会の動き
夫の友太さん（33歳）は「妻にも抱かれず、外の世界も見られないまま懸命に生きる娘が、どうして被害者と認められないのか」という思いを強く抱く。
2025年8月19日からオンライン署名活動を始めると、わずか10日間で8万5000筆を超える賛同が集まる事態に。
「娘の命に意味づけができるのなら―」という友太さんの切実な声は、法制度の“空白”を浮き彫りにした。
捜査と法的な壁、過去判例からみえる課題
名古屋地検が起訴したのは「母親の死亡」に対する刑事責任だけ。
日七未ちゃんは生まれた時点で「被害者」と認められていない。
刑法上、胎児は「人」として扱われず、現行法では被害者性に明確な根拠がない。
しかし、過去には熊本水俣病事件（1988年最高裁）や交通事故で胎児が重傷を負った鹿児島地裁判決（2003年）、生後死亡したケースで業務上過失致死罪が認められた静岡地裁浜松支部判決（2006年）などもあり、
論点としては争いが多い。
遺族は「胎児への加害行為」も刑事責任として問うべきだと考え、法制度の“穴”を埋めるため、署名活動を広げている。
今後の見通しと読者へのメッセージ
9月2日に名古屋地裁一宮支部で加害者の初公判が予定されている。
今回の事故を契機に、胎児の被害者性や法制度の在り方が社会全体で問われることになるだろう。
この記事は、読売新聞、中日新聞、TBS NEWS DIGなど複数の大手メディアの公式発表・報道記事をもとに、事実確認を行った上で執筆しています。推測や未確認情報は含みません。最新の情報は、各メディアの公式サイトでご確認ください。