なぜ国外逃亡が可能だったのか|制度の盲点を検証

多くの方が疑問に思うのは「なぜ犯罪容疑者が海外に逃亡できたのか」という点でしょう。
この事件は、日本のパスポート制度と犯罪人引渡条約の構造的問題を明らかにしました。
出国審査とパスポート制度の限界
福原容疑者は2024年1月31日に会社解散を発表した直後、ドバイへ出国しました。
しかし、外務省が旅券返納命令を出したのは2024年4月です。
この約3カ月のタイムラグが、容疑者に逃亡の機会を与えてしまいました。
日本の出国審査では、有効なパスポートと航空券を提示すれば、基本的に本人確認のみで通過できます。
犯罪容疑がかかっていても、パスポートが有効で指名手配前であれば、出国を阻止する法的根拠がありません。
つまり、事件発覚から捜査・手配までの間に出国されてしまえば、防ぐ手立てがないのが現実です。
旅券返納命令の仕組みと効力
旅券法第19条によれば、外務省は「旅券の名義人の生命、身体又は財産の保護のために渡航を中止させる必要がある」と認められる場合、期限を付けて旅券の返納を命じることができます。
返納命令を受けた者が期限までに返納しなかった場合、旅券は効力を失います。
違反者には5年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。
福原容疑者のパスポートは返納命令後に失効していましたが、すでにドバイに滞在していたため、物理的な返納は行われませんでした。
パスポート失効により、合法的な滞在継続や第三国への移動が困難になったことが、今回の帰国・逮捕につながった可能性があります。
ドバイが逃亡先に選ばれる理由
ドバイを含むUAE(アラブ首長国連邦)は、長年「富豪の避難所」として知られてきました。
日本は犯罪人引渡条約を米国と韓国のわずか2カ国としか締結しておらず、UAEとは条約がありません。
条約がない国への逃亡犯罪人の引渡しは、相手国の国内法と相互主義の保証に基づく任意の協力に頼るしかありません。
ただし、UAEは2022年以降、マネーロンダリング対策強化の流れで、2022年6月時点までに英国、フランス、インド、中国など37カ国と犯罪人引渡条約または刑事共助条約を締結しています。
今回の福原容疑者逮捕は、UAE当局が身柄を確保し日本への帰国を実現させたもので、国際協力の成果と言えます。
社会科教師として国際法の仕組みを教えてきた経験から言えば、日本のパスポート制度は「性善説」に基づいており、犯罪者の国外逃亡を防ぐ即時性に欠けています。
指名手配される前に出国されてしまえば、事後的な対応しかできないのが現状の課題です。
被害者救済の現実|詐欺事件での返金可能性

トケマッチ事件で、多くの被害者が最も知りたいのは「お金は戻ってくるのか」という点でしょう。
結論から言うと、刑事事件として加害者が逮捕されても、「被害額が全額返ってくる可能性は高くない」のが現実です。
詐欺事件で被害金が戻りにくい3つの理由
一般的に、詐欺事件で被害金が戻りにくい理由は次の3つです。
まず、加害者が資金や財産を隠している、あるいはすでに使い切っている場合が多いことです。
次に、資産があっても差し押さえや配当の手続きに時間がかかります。
さらに、被害者が多数いる場合、配当される額がごく一部になってしまいます。
トケマッチ事件の場合も、預かった高級腕時計の所在が不明なものが多く、換金済みの可能性が指摘されています。
刑事裁判で有罪となれば「被害弁償」や「示談」が量刑に影響するため、ある程度の弁済は行われる可能性があります。
しかし、「元本が全額戻る」ケースは、詐欺事件ではむしろ例外的と言わざるを得ません。
利用可能な救済制度と相談窓口
とはいえ、何もできないわけではありません。
代表的な制度と窓口を整理します。
**振り込め詐欺救済法(預金払戻しの制限等に関する法律)**は、銀行口座が犯罪利用口座として凍結された場合、被害者が申請することで残高の範囲内で配分を受けられる制度です。
ただし、トケマッチのように物品預託や現物のやり取りが中心だと、適用されないケースも多くなります。
消費生活センター・国民生活センターでは、法律的なアドバイスや事業者へのあっせんが受けられます。
個別に民事訴訟を起こすべきか、集団で動くべきかなどの相談が可能です。
弁護士会・法テラスでは、被害額が大きい場合、弁護士に依頼して加害者の財産を調査し、損害賠償請求を行う道もあります。
法テラスを通じて、一定条件のもとで費用の立替えや無料相談を受けられます。
【表:詐欺被害者が利用できる主な相談窓口】
| 窓口名 | 対応内容 | 連絡先 |
|---|---|---|
| 警察(被害届) | 刑事事件としての捜査 | 最寄りの警察署または110番 |
| 消費生活センター | 法律的アドバイス、事業者あっせん | 188(消費者ホットライン) |
| 法テラス | 無料法律相談、弁護士費用立替 | 0570-078374 |
| 国民生活センター | 消費者トラブル相談 | 平日10〜12時、13〜16時 |
(出典:各機関公式情報 2025年12月時点)
民事訴訟の可能性と限界

刑事事件とは別に、被害者は加害者に対して民事訴訟を起こすことができます。
損害賠償請求訴訟で「支払え」という判決(債権)を得て、判決をもとに加害者名義の不動産や預金を差し押さえます。
ただし、次のような現実的なハードルがあります。
そもそも差し押さえ可能な財産がなければ、勝訴しても回収はできません。
また、海外に資産が移されていると回収が極めて困難になります。
被害者が個別に動くと、弁護士費用や時間の負担が重くなります。
元教師として、子どもたちに「裁判で勝てばお金が戻るとは限らない」という、少し残酷な現実を教える場面が何度もありました。
トケマッチ事件も、まさにその典型例です。
被害者がまず今できる現実的な一歩は、「警察への被害届・告訴状の提出」を確実に行うことです。
消費生活センターに相談し、同様の被害者団体や情報がないか確認することも重要です。
SNSなどで情報を得る際は、怪しい「二次被害ビジネス(取り戻します商法)」に十分注意してください。
「悔しい」「何とか取り戻したい」という心理につけ込む業者もいます。
一度被害に遭った人が、さらに二次被害に遭うことだけは、ぜひ避けてほしいと思います。
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