国際法から見た中国の主張の矛盾

中国大使館の「サンフランシスコ講和条約は不法かつ無効」という主張には、国際法上の重大な矛盾があります。元社会科教師として、この矛盾を3つの観点から整理してみます。
第一の矛盾:条約の相対効の原則
国際法では、「条約は締結国間でのみ効力を持つ」という**「条約の相対効」**が基本原則です。
サンフランシスコ講和条約は48カ国が署名し、日本を含む多くの国が批准しました。中国(中華民国も中華人民共和国も)は参加していないため、この条約に拘束されませんが、同時に条約を無効にする権利もありません。
これは日常生活に例えれば、「あなたが参加していない契約を、後から無効だと主張できない」のと同じです。
教師時代、国際法の授業でこの原則を教える際、「クラスの一部の生徒が決めた約束事を、参加していない生徒が『無効だ』と言っても意味がない」とも説明していました。
第二の矛盾:戦勝国の地位の主張
中国は「自分たちは戦勝国であり、講和条約に参加する権利があった」と主張します。
しかし、1951年時点で「中国」を代表する政府がどちらなのか、国際社会は合意できませんでした。この状況で「参加する権利があった」と後から主張しても、当時の冷戦構造という現実を無視した議論です。
第三の矛盾:台湾の地位の主張
中国が最も神経をとがらせているのは、サンフランシスコ講和条約が「台湾の帰属先を明記していない」点です。
条約では日本が台湾を「放棄」したとのみ記載され、中国への「返還」とは書かれていません。
中国はこれを「不法」と主張しますが、条約に参加していない国が、条約の内容を「不法」と判定する法的根拠はありません。
これは国際法の大原則である**「権利と義務の対応」**に反しています。
条約の義務を負わない国が、条約の内容に口出しできないのは当然のことです。元社会科教師として35年間国際法を教えてきた経験から言えば、中国の主張は国際法の基本原則を無視しています。

よくある質問|サンフランシスコ講和条約と中国
Q1:なぜ中国は今になって「無効」と主張するのですか?
A:高市首相が台湾の法的地位について言及したことが直接のきっかけです。中国にとって台湾問題は習近平政権の正統性に関わる最重要課題であり、日本が「台湾の地位は未定」という解釈を示すことは許容できないのです。
Q2:サンフランシスコ講和条約で台湾はどうなったのですか?
A:日本は台湾と澎湖諸島に対する「すべての権利、権原及び請求権を放棄」しましたが、どの国に譲渡するかは明記されていません。これが「台湾の地位未定論」の根拠となっており、中国が最も神経をとがらせている点です。
Q3:国際社会はどう見ているのですか?
A:サンフランシスコ講和条約は48ヶ国が署名し、国際的に有効とされています。中国がいくら「無効」と主張しても、この国際的合意を覆すことはできません。元教師の視点から言えば、これは「多数決で決まったルールを、参加しなかった人が後から文句を言う」ようなものです。
筆者プロフィール
なおじ|元社会科教師(35年)・元バスケ部顧問。政治分析、歴史知識、ドラマ評論を得意とし、キャンピングカーオーナーとして旅ブログも運営。穏やかな語り口で複雑な問題をわかりやすく解説します。