今のまま、国民投票が行われた場合——
日本の国民投票では、CMを「いくら流してもよい」という期間があります。
上限なくテレビCMを流せる状態が、法律にそのまま残っています。
「それって公平なの?」という声がある一方、「規制こそが言論の自由を脅かす」という声も根強くあります。

こんにちは、なおじです。
社会科教師として35年、選挙啓発活動に携わってきた立場から、このテーマは授業でも何度も取り上げてきました。
正直に言うと、生徒に問われるたびに「どちらが正しいとも言い切れない」と感じてきた問題でもあります。
この記事では、規制推進派・規制慎重派それぞれの主張を公平に整理したうえで、海外の実例と日本の経緯をわかりやすくまとめます。
この記事でわかること
- 日本の国民投票CMの現状(何が規制されていて何がされていないか)
- 「規制すべき」という立民・共産側の主な論点
- 「規制に慎重であるべき」という自民・民放連側の主な論点
- 英国・フランス・ニュージーランドなど海外5か国の規制内容
- 2021年から5年間、なぜ合意に至っていないのか
まず結論から答えます
Q1. 国民投票のCMは今、規制されているの?
投票期日の14日前からは放送禁止ですが、それ以前の期間は放送量に上限がなく、費用の制限もありません。ただし「規制がないこと=問題」とするかどうかは、表現の自由や国民の判断力をどう評価するかによって見解が分かれています。
Q2. なぜ2021年の改正でCM規制が見送られたの?
「表現の自由」を重視する自民・公明が法規制に慎重だったため、CM規制は「3年以内に検討する」という附帯決議に先送りされました。一方で「CM規制を条件に改憲議論を止めようとしている」という批判も野党側に向けられています。
Q3. 海外では国民投票のCMをどう規制しているの?
英国は支出上限と透明性表示を義務付け、フランスは投票前6か月の商業広告を禁止しています。ただし各国の制度はそれぞれの政治文化や歴史的背景を反映したものであり、そのまま日本に当てはまるとは限りません。
国民投票CMの現状――何が決まっていて何が決まっていないか

日本の国民投票法では、投票期日の14日前からCMの放送が禁止されています。
これは法律で明確に定められたルールです。
では、それ以前の期間はどうか。発議から投票日まで最短60日・最長180日あります。その「14日前まで」の期間については、放送量に上限がなく、費用の制限もありません。
民放連の「自主規制しない」という決定
2018年9月、民放連(日本民間放送連盟)は「国民投票運動CMについて、民放連として統一的に量の自主規制を行う合理的な理由が見出せない」として、自主規制を行わない方針を正式に決定しました。
「業界団体として統一ルールを作ることが、放送の独立性を守る観点から適切かどうか」という判断です。
個々の放送局が独自に対応することは否定していませんが、業界統一基準は設けないという立場です。
日本の国民投票はまだ一度も行われていない
重要な事実として——現行憲法下で憲法改正の国民投票は一度も実施されていません。
つまり「規制なしで行われた弊害」という具体的な事例は、日本国内には存在しません。これは議論の前提として押さえておく必要があります。
「CM規制を設けるべき」という立場の主な論点

規制推進派(立憲民主党・日本共産党など)の主張には、それぞれ根拠があります。
資金力格差への懸念
「資金力のある側が大量のCMを流せば、世論が傾く可能性がある」というのが中心的な主張です。
カタログハウス(通販生活)などの媒体でも同様の問題提起がなされており、一定の支持を集めています。
特に企業・団体献金の影響を受けやすい政党と、そうでない政党の間で「広告量の格差」が生まれる構造を問題視しています。
ネット広告・AIによる世論誘導リスク
テレビCMだけでなく、ターゲティング広告やAIを使った情報操作のリスクを指摘する声が近年強まっています。
「個人データを使ったピンポイントの広告は、テレビより影響が大きい可能性がある」という主張です。
2021年の附帯決議でも「インターネット広告」が検討対象に明記されており、ネット規制は議論の中心テーマのひとつになっています。
ブレグジットを教訓にすべきという意見
英国のEU離脱をめぐる国民投票(2016年)では、SNSのデータ悪用や大量の有料広告が問題視されました。「日本もこの教訓を生かして事前に法整備をすべき」という意見は、国立国会図書館の調査資料でも各国の規制例として紹介されています。
「規制に慎重であるべき」という立場の主な論点

自民党・民放連寄りの規制慎重論にも、正当な根拠があります。
表現の自由・国民運動の自由
「憲法改正という国家の最高法規を決める主権者の運動に対し、国が法律で制限を加えるべきでない」というのが基本的な立場です。
総務省の国民投票制度の基本理念でも「国民投票運動は原則自由」とされており、これは単なる与党の都合論ではなく、直接民主制の考え方に根ざした主張です。
国による広告の量や期間への介入が「検閲の入口になりかねない」という警戒感も、表現の自由を重視する観点からは十分に合理的です。
実効性への疑問
「SNSや海外サーバー経由の広告を法律で完全に取り締まるのは現実的に不可能」という技術的な批判もあります。
実効性のない規制が、かえって一般国民の自由な言論を萎縮させるだけになる可能性を指摘する声です。
国民の判断力を信頼すべきという視点
「CMがたくさん流れたとしても、現代の有権者がそのまま鵜呑みにするわけではない」という反論も根強くあります。
賛否両方の広告が流れる中で、各自が判断できるという考え方です。「規制を求めること自体が国民の知性を過小評価している」という指摘も、ネット上では一定の支持を集めています。
CM規制論は「改憲議論の引き延ばし」という批判
産経新聞(2021年)の報道が指摘するように、「CM規制を先決条件として掲げることで、憲法改正の本質的な議論に入ることを阻んでいるのではないか」という批判が自民党・保守派から出ています。
「何年も同じ主張を繰り返し、審議をストップさせている」という見方です。これも、スタンスの違いとして公平に紹介しておく必要があります。
海外5か国の規制を事実として整理する

各国の制度を「正解のモデル」としてではなく、「それぞれの政治文化の中で生まれた仕組み」として紹介します。
英国――支出上限と透明性表示
登録広告主に対して支出上限額を設定。インターネット広告には広告主名・住所の表示義務があります。ただし英国自身もブレグジット後に「規制があっても世論操作を完全には防げなかった」という評価が出ており、規制の有効性については議論が続いています。
フランス――投票前6か月の商業広告禁止
国民投票が行われる月の初日前6か月間、インターネットを用いた商業広告を国民投票の宣伝目的で使うことを禁止。フランスは歴史的に選挙・投票への国家介入を制度化してきた背景があります。
ニュージーランド――費用上限と報告義務
広告費の上限設定と支出報告義務を採用。ただし関係法は一部失効しており、現在も制度の見直しが続いています。
ドイツ・アイルランド
ドイツは連邦レベルの国民投票制度が限定的。アイルランドは選挙委員会による偽情報監視と削除通知の仕組みを持ちます。
5か国比較(事実の整理)
| 国 | 支出上限 | 広告禁止期間 | 透明性表示 | 偽情報対策 |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | なし | 投票14日前のみ | なし | なし |
| 英国 | あり | ― | あり(ネット) | ― |
| フランス | ― | 投票前6か月 | あり | ― |
| ニュージーランド | あり(一部失効) | ― | あり | ― |
| アイルランド | ― | ― | あり | あり |
この表は「日本が遅れている」という評価のためではなく、各国が異なる制度設計を持つという事実の整理です。
元教師が教室で直面した「答えの出ない問い」

ここからはなおじの個人的な考察です。事実ではなく、35年の教育現場経験をもとにした主観的な視点としてお読みください。
授業でこのテーマを扱うとき、生徒から必ず出る質問があります。
「先生、お金のある側が有利なら、公平に戦えるんですか?」
これに対して、なおじはしばらく答えに詰まりました。
ただ、考え続けるうちに気づいたことがあります。
「公平な議論のために規制が必要だ」という主張も、「自由な言論を守るために規制は不要だ」という主張も、どちらも民主主義の大切な価値に根ざしている。
どちらの立場も「民主主義のために」と言っている
厄介なのは、規制推進派も規制慎重派も、どちらも「民主主義のために」という言葉を使っている点です。
「公平な情報環境なしに民主主義は成り立たない」——これも民主主義の論理です。
「国家が言論に介入できる仕組みを作ることは民主主義の危機だ」——これも民主主義の論理です。
授業で生徒に教えてきた立場として言うと——どちらが正しいかを簡単に決めることは、なおじにはできません。
なおじが感じる「もどかしさ」
率直に言えば、「議論のための議論」が何年も続いている状況には閉口しています。
CM規制の是非は大切な問いです。ただ、それを理由に憲法改正の本質的な内容に関する議論に入れない状況が続くとしたら——それもまた、民主主義のあり方として考えるべき問題ではないかと思っています。
どちらの立場が正しいかは、最終的には読者のみなさんが判断することです。
2026年現在、議論はどこまで来たか
2026年6月現在、国民投票法の改正案が衆院憲法審査会で審議入りしています。
👉関連記事:国民投票法改正2026年|変更点と見送られたCM規制問題
2026年改正案の中心は「投票環境の整備」
投票立会人の要件緩和・離島での開票所設置など、公職選挙法とのズレを解消する内容が中心です。CM規制は今回の法案には含まれていません。
自民党内にも変化の兆し
注目すべき動きとして、自民党の新藤義孝氏が「ネット広告等に関しては速やかに法制上の措置を講じるのが望ましい」と発言したことが報じられています(日経新聞・産経新聞、2026年6月)。
かつては法規制に完全に消極的だった自民党内でも、AI・SNSによる世論攪乱リスクを踏まえ、透明性確保に限定した一定のルール整備を容認する方向へ議論がシフトしつつある点は、重要な変化です。
5年間、合意に至っていない理由
👉関連記事:国民投票法の仕組みと手続きの流れをわかりやすく解説
2021年の附帯決議から5年間、与野党の合意に至っていない理由は一言では言えません。「表現の自由と公平性のどちらを優先するか」という価値観の対立が根底にあり、技術的な解決策が出れば済む問題ではないからです。
よくある質問(Q&A)
民放連は2018年に「統一的な量の自主規制を行う合理的な理由が見出せない」として自主規制を行わない方針を決定しました。背景には「放送局の独立性・自律性を守る」という放送事業者としての原則があります。個々の放送局が独自判断で対応することは否定していません。統一規制を設けることが、かえって放送の自由への介入につながるという考え方です。
規制推進派は「公平な情報環境の確保」を、規制慎重派は「国家による言論介入の防止」をそれぞれ民主主義の根拠として主張しており、どちらが正しいとは一概に言えません。欧州各国は「内容規制ではなく量・費用・透明性への規制」という形で一定の折り合いをつけていますが、それが日本に適合するかは別途検討が必要です。
含まれています。2021年の附帯決議ではテレビCMだけでなく「インターネット広告」も検討対象に明記されています。2026年6月には自民党の新藤義孝氏が「ネット広告に法制措置を講じることを速やかに検討すべき」と発言するなど、ネット広告の扱いが議論の焦点になりつつあります。
日本では現行憲法下で憲法改正の国民投票は一度も行われていません。海外では英国のブレグジット国民投票(2016年)で大量の有料広告とSNSの活用が問題視されましたが、英国には一定の支出規制が存在していました。「規制があっても問題は起きた」という評価もあり、規制の有効性については意見が分かれています。
さらに詳しく知りたい方へ → 国民投票法改正2026年|変更点と見送られたCM規制問題

筆者紹介|なおじ
なおじは元社会科教師として教育現場に35年間携わり、指導主事を5年、校長を11年務めました。退職後もボランティアで子どもたちに学習を教えています。
社会科教師として選挙啓発活動にも長く携わってきました。「政治を難しいで終わらせない」記事を心がけており、CM規制問題は授業でも何度も取り上げてきた身近なテーマです。