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国民投票CMはなぜ規制できないのか——元社会科教師が海外5か国と5年間の論争を整理する

令和8年6月17日最終更新

今のまま国民投票が行われたとしたら——日本では最長180日の投票運動期間のうち、CMを「いくら流してもよい」期間が166日間続きます。

「それって公平なの?」という声がある一方、「規制こそが言論の自由を脅かす」という声も根強くあります。

こんにちは、なおじです。
社会科教師として35年、選挙啓発活動に長く携わってきた立場から、このテーマは授業でも何度も取り上げてきました。
正直に言うと、生徒に問われるたびに「どちらが正しいとも言い切れない」と感じてきた問題でもあります。

読み終わるころには、規制推進派・慎重派それぞれの主張と、海外の実例、そして5年間議論が止まっている構造的な理由がスッキリ整理されるはずです。

目次

まず結論から答えます

Q1. 国民投票のCMは今、規制されているの?

投票期日の14日前からは放送禁止ですが、それ以前の期間(最長166日間)は放送量に上限がなく、費用の制限もありません。ただし「規制がないこと=問題」とするかどうかは、表現の自由や資金力格差をどう評価するかによって見解が分かれています。

Q2. なぜ2021年の改正でCM規制が見送られたの?

「表現の自由」を重視する自民・公明が法規制に慎重だったため、CM規制は「3年以内に検討する」という附則に先送りされました。その3年が過ぎた2026年現在も、与野党の価値観の対立が続いており合意に至っていません。

Q3. 海外では国民投票のCMをどう規制しているの?

英国は支出上限と透明性表示を義務付け、フランスは投票前6か月の商業広告を禁止しています。ただし各国の制度はそれぞれの政治文化や歴史的背景を反映したものであり、そのまま日本に当てはまるとは限りません。

国民投票CMの現状——何が決まっていて何が決まっていないか

日本の国民投票法では、投票期日の14日前からCMの放送が禁止されています。

これは法律で明確に定められたルールです。

では、それ以前の期間はどうか。
発議から投票日まで最短60日・最長180日あります。
その「14日前まで」の期間については、放送量に上限がなく、費用の制限もありません。

つまり、最長で166日間——約5か月半——は放送量無制限という状態が続くわけです。

民放連の「自主規制しない」という決定

2018年9月、民放連(日本民間放送連盟)は「量的な自主規制を行う合理的な理由が見出せない」として、自主規制を行わない方針を正式に決定しました。

「業界団体として統一ルールを作ることが、放送の独立性を守る観点から適切かどうか」という判断です。

個々の放送局が独自に対応することは否定していませんが、業界統一基準は設けないという立場——これが現在まで変わっていない民放連のスタンスです。

なおじが教壇でこの話をすると、生徒たちは決まって「えっ、テレビ局が自分でルールを決めればいいだけじゃないの?」という顔をします。
そう、理屈上は確かにそうなんですが、それが「放送の自由」と衝突するという話なんですね(笑)。

日本でまだ一度も行われていないという事実

重要な前提として——現行憲法下で憲法改正の国民投票は一度も実施されていません。

「規制なしで行われた弊害」という具体的な事例は、日本国内には存在しない。

これは議論の前提として必ず押さえておく必要があります。
「問題が起きてから規制すればいい」という立場と、「問題が起きる前に手を打つべきだ」という立場——CM規制論争の根っこには、この温度差があります。

👉関連記事:国民投票法の仕組みと手続きの流れをわかりやすく解説 ①

「CM規制を設けるべき」という立場の主な論点

規制推進派(立憲民主党・日本共産党など)の主張は、民主主義の公平性という観点からの問題提起です。

資金力格差への懸念

「資金力のある側が大量のCMを流せば、世論が傾く可能性がある」というのが中心的な主張です。

企業・団体献金の影響を受けやすい政党と、そうでない政党の間で「広告量の格差」が生まれる構造——これを問題視しています。

授業でこの話をしたとき、生徒からこんな質問が来たことがあります。
「先生、お金のある側が有利なら、公平に戦えるんですか?」

なおじは、しばらく答えに詰まりました。
「そうとも言えるし、そうとも言えない」という話になるので、正直、教壇で一番厄介な質問のひとつです(笑)。

ネット広告・AIによる世論誘導リスク

テレビCMだけでなく、ターゲティング広告やAIを使った情報操作のリスクを指摘する声が近年急速に強まっています。

「個人データを使ったピンポイントの広告は、テレビより影響が大きい可能性がある」という主張です。

2021年の附則でも「インターネット広告」が検討対象に明記されており、ネット規制は議論の中心テーマのひとつになっています。

2026年6月には自民党の新藤義孝氏が「ネット広告に法制措置を講じることを速やかに検討すべき」と発言するなど、かつては規制に消極的だった与党側にも変化が見え始めています。

ブレグジットを教訓にすべきという意見

英国のEU離脱をめぐる国民投票(2016年)では、SNSのデータ悪用や大量の有料広告が問題視されました。
「日本もこの教訓を生かして事前に法整備をすべき」という意見は、専門家からも根強くあります。

ただしここには重要な但し書きがあって——英国には一定の支出規制がありました。
「規制があっても問題は起きた」という評価も同時に存在しており、ブレグジットを「規制なしの失敗例」として引用するのは正確ではありません。

「規制に慎重であるべき」という立場の主な論点

CM規制議論の5年間タイムライン

自民党・民放連寄りの規制慎重論は、表現の自由という民主主義の根本原理に根ざした主張です。

表現の自由・国民運動の自由

「憲法改正という国家の最高法規を決める主権者の運動に対し、国が法律で制限を加えるべきでない」というのが基本的な立場です。

国による広告の量や期間への介入が「検閲の入口になりかねない」という警戒感は、表現の自由を重視する観点からは十分に合理的です。

なおじ流に言い換えると——「ルールを決める側がプレーヤーでもある」という状況で、どこまで国が口を出していいかという話です。
学校で言えば、試験問題を作る先生が採点基準も採点者も兼ねている、みたいな話に近い。

実効性への疑問

「SNSや海外サーバー経由の広告を法律で完全に取り締まるのは現実的に不可能」という技術的な批判もあります。

実効性のない規制が、かえって一般国民の自由な言論を萎縮させるだけになる可能性を指摘する声は、技術的・法的な観点からも一定の説得力があります。

国民の判断力を信頼すべきという視点

「CMがたくさん流れたとしても、現代の有権者がそのまま鵜呑みにするわけではない」という反論も根強くあります。

「規制を求めること自体が国民の知性を過小評価している」という指摘——これも民主主義の考え方に根ざした主張です。

CM規制論は「改憲議論の引き延ばし」という批判

「CM規制を先決条件として掲げることで、憲法改正の本質的な議論に入ることを阻んでいるのではないか」という批判が保守派から出ています。

「何年も同じ主張を繰り返し、審議をストップさせている」という見方——これも、スタンスの違いとして公平に紹介しておく必要があります。

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海外5か国の規制を事実として整理する

国民投票法

各国の制度は「正解のモデル」ではなく、それぞれの政治文化の中で生まれた仕組みです。

英国——支出上限と透明性表示

登録広告主に対して支出上限額を設定。インターネット広告には広告主名・住所の表示義務があります。

ただし英国自身もブレグジット後に「規制があっても世論操作を完全には防げなかった」という評価が出ており、規制の有効性については議論が続いています。

フランス——投票前6か月の商業広告禁止

国民投票が行われる月の初日前6か月間、インターネットを用いた商業広告を国民投票の宣伝目的で使うことを禁止。
フランスは歴史的に選挙・投票への国家介入を制度化してきた背景があります。

ニュージーランド——費用上限と報告義務

広告費の上限設定と支出報告義務を採用。ただし関係法は一部失効しており、現在も制度の見直しが続いています。

ドイツ・アイルランド

ドイツは連邦レベルの国民投票制度が限定的。アイルランドは選挙委員会による偽情報監視と削除通知の仕組みを持ちます。

5か国比較(事実の整理)

海外5か国の国民投票CM規制比較
支出上限 広告禁止期間 透明性表示 偽情報対策
日本 なし 投票14日前のみ なし なし
英国 あり あり(ネット)
フランス 投票前6か月 あり
ニュージーランド あり(一部失効) あり
アイルランド あり あり

この表は「日本が遅れている」という評価のためではなく、各国が異なる制度設計を持つという事実の整理です。

なぜ5年間、合意に至っていないのか——構造的な理由

海外5か国の国民投票CM規制比較表

2021年の附則から5年間、与野党の合意に至っていない理由は一言では言えません。

表面上は与野党の主張の対立ですが、なおじはもう少し深いところに構造的な理由があると見ています。

「どちらも民主主義のために」が本当に厄介

厄介なのは、規制推進派も規制慎重派も、どちらも「民主主義のために」という言葉を使っている点です。

「公平な情報環境なしに民主主義は成り立たない」——これも民主主義の論理です。
「国家が言論に介入できる仕組みを作ることは民主主義の危機だ」——これも民主主義の論理です。

価値観の対立であるため、技術的な解決策が出れば済む問題ではない。
「表現の自由と公平性のどちらを優先するか」——この根本的な問いに、まだ答えが出ていないわけです。

制度設計の「鶏と卵」問題

もう一つの構造的な理由は、「CM規制の中身を決める前に、どんな改憲を発議するかを決めないといけない」という順序問題があることです。

どんな条文改正を行うかによって、賛否の勢力関係も広告の性質も変わります。
「改憲の中身が決まらないとCM規制の設計もできない」——でも「CM規制が決まらないと改憲の議論に入れない」という立場がある。

なおじ流に言えば、「試験問題が決まる前からカンニング対策を議論している」ようなものです。

2026年改正の最新動向

2026年6月11日、自民・維新・国民民主・参政の4党が提出した国民投票法改正案が衆院憲法審査会で審議入りしました。

今回の改正案の内容は投票環境の整備が中心で、CM規制は含まれていません。

一方、中道改革連合は「CM規制の議論とセットでなければ賛成しない」との立場を崩していない——この構図は変わっていません。

👉関連記事:国民投票法改正2026年|変更点と見送られたCM規制問題 ②

情報操作・メディアリテラシー・フェイクニュース関連書。
例:『フェイクニュースの生態系』(青弓社)

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情報操作・プロパガンダの基礎。
例:『プロパガンダ[新版]』(エドワード・バーネイズ)

プロパガンダ[新版]エドワード・バーネイズ 、 中田 安彦

「SNSと世論操作の問題は、国民投票に限った話ではありません。手元に1冊置いておくと、ニュースの見方が変わります

元教師が教室で直面した「答えの出ない問い」

ここからはなおじの個人的な考察です。事実ではなく、35年の教育現場経験をもとにした主観的な視点としてお読みください。

授業でこのテーマを扱うとき、必ず出る質問があります。
「先生、お金のある側が有利なら、公平に戦えるんですか?」

なおじはしばらく答えに詰まりました。

ただ、考え続けるうちに気づいたことがあります。
どちらの立場も「民主主義のために」と言っている——それはどちらの主張も、民主主義の大切な価値に根ざしているということです。

なおじが感じる「もどかしさ」

率直に言えば、「議論のための議論」が何年も続いている状況には閉口しています。

CM規制の是非は大切な問いです。
ただ、それを理由に憲法改正の本質的な内容に関する議論に入れない状況が続くとしたら——それもまた、民主主義のあり方として考えるべき問題ではないかと思っています。

どちらの立場が正しいかは、最終的には読者のみなさんが判断することです。

さらに詳しく知りたい方へ → 国民投票法改正2026年|変更点と見送られたCM規制問題 ②

よくある質問(Q&A)

民放連は2018年9月、「量的な自主規制を行う合理的な理由が見出せない」として、自主規制を行わない方針を正式に決定しました。背景には「放送局の独立性・自律性を守る」という放送事業者としての原則があります。個々の放送局が独自判断で対応することは否定していませんが、業界統一基準を設けることが、かえって放送の自由への介入につながるという考え方です。2026年現在も、この基本姿勢は変わっていません。

含まれています。2021年の附則ではテレビCMだけでなく「インターネット広告」も検討対象に明記されています。2026年6月には自民党の新藤義孝氏が「ネット広告に法制措置を講じることを速やかに検討すべき」と発言するなど、ネット広告の扱いが議論の新たな焦点になりつつあります。テレビCM以上に規制が難しいとされる点が、議論をさらに複雑にしています。

日本では現行憲法下で憲法改正の国民投票は一度も行われていません。海外では英国のブレグジット国民投票(2016年)で大量の有料広告とSNSの活用が問題視されましたが、英国には一定の支出規制が存在していました。「規制があっても問題は起きた」という評価もあり、規制の有効性については意見が分かれています。「規制なしで起きた具体的な弊害」は、まだどの国にも存在しないとも言えます。

直接の法的関係はありませんが、制度設計の問題として密接に関連しています。日本の国民投票法には最低投票率の規定がなく、低投票率でも改憲が成立しえます。「CM規制がなければ情報格差が生まれ、投票に行かない人が増える可能性がある」——この点から、CM規制と最低投票率問題は「公正な国民投票」という同じ論点の両面として語られることが多くあります。

👉関連記事:国民投票法の仕組みと手続きの流れをわかりやすく解説 ①

筆者紹介|なおじ

なおじは元社会科教師として教育現場に35年間携わり、指導主事を5年、校長を11年務めました。退職後もボランティアで子どもたちに学習を教えています。

社会科教師として選挙啓発活動にも長く携わってきました。「政治を難しいで終わらせない」記事を心がけており、CM規制問題は授業でも何度も取り上げてきた身近なテーマです。

現在は8つのブログでドラマ芸能政治歴史スポーツ学び書評を書いています。

社会科・公民教育・主権者教育関連書。
例:『18歳からの選挙 Q&A』(服部進治ほか)

18歳からの選挙 Q&A

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