最終更新日:2026年8月2日
国民投票法とは、憲法改正について国民が最終判断を下すための手続きを定めた法律です。国会で発議された改正案は、国民投票で賛成票が投票総数の2分の1を超えなければ承認されません。
けれど、「国民投票法の仕組みは?」「国会で何が決まれば投票になるのか」「過半数とは誰を分母にした数字なのか」と聞かれると、すぐ説明できる人は多くないはずです。
憲法を変える最終判断を国民に委ねるなら、その判断のルールを知らないままでよいのでしょうか。
国民投票は、日本でまだ一度も実施されていません。存在するのに動いていない制度だからこそ、いざという時ではなく、いま仕組みを確かめておく意味があります。
この記事では、憲法改正の発議から国民投票、承認までの流れを4ステップで整理します。あわせて、最低投票率、放送CM・ネット広告、2026年に国会へ提出された投票・開票環境の整備に関する改正案も見ていきます。
この記事でわかること
- 国民投票法とは何か・なぜ60年以上も手続き法がなかったのか
- 憲法改正の発議から投票・成立までの手続きの流れ(4ステップ)
- 賛成「過半数」はどう計算するのか・最低投票率問題の実態
- 国民投票法の制定・主な改正の経緯と、2026年に審議対象となっている改正案の内容
- 国民投票のCM・ネット広告規制は何が課題か

まず結論から答えます
Q1. 国民投票法とは何のための法律ですか?
憲法改正に必要な「国民投票」の手続きを定めた法律です。2007年に制定され、18歳以上の国民が憲法改正の最終判断を下す制度の根拠となっています。
Q2. 国民投票はどんな流れで行われますか?
国会が総議員の3分の2以上の賛成で憲法改正を発議し、その60〜180日以内に国民投票が実施されます。投票用紙の「賛成」か「反対」を○で囲む方式です。
Q3. 賛成「過半数」とは、どう計算するのですか?
有効投票数(賛成票+反対票の合計)の過半数です。棄権や無効票は分母に含まれません。「投票した人の中での多数決」という仕組みです。
国民投票法とは何か・なぜ必要な法律なのか

国民投票法とは、日本国憲法の改正手続きを定めた法律です。正式名称は「日本国憲法の改正手続に関する法律」といいます。
憲法96条が出発点
憲法96条には、「各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議し、国民投票で過半数の承認を得ること」と定められています。
国民投票法は、この96条のルールを具体的な手続きとして肉付けした法律です。
憲法は1946年に公布されました。にもかかわらず、改正手続きの具体的な法律が整備されたのは2007年——実に60年以上、手続き法なしで来ていたわけです。
ここ、突っ込みたくなりませんか?
「60年間、何かあったらどうするつもりだったんだ」と。
当然ながら、その間に改憲の発議が一度もなかったから成り立っていた話で、逆に言えば**「手続き法がないから発議もできない」という構造が改憲への高いハードルになっていた**面もあります。
「最終決定者は国民」という理念

国民投票法のもっとも重要な点は、憲法改正の最終決定権を国民に与えていることです。
国会がどれだけ賛成しても、国民投票で否決されれば改正はできません。
授業でこの話をすると、生徒たちは決まって驚いた顔をします。
「えっ、選挙に行かなくても憲法は変わるんじゃないの?」と。
そうではない。
選挙と別に、国民が直接判断する機会が設けられているのです。
投票権は満18歳以上の日本国民が持ちます。
国民投票の手続きの流れ・4ステップで整理

国民投票法の仕組みを理解するには、手続きの流れを順番に追うのが一番確実です。
①国会での原案提出と憲法審査会
衆議院では100人以上、参議院では50人以上の国会議員の賛成により、憲法改正の原案が提出されます。
まず各院の憲法審査会で審査が行われます。
②本会議での可決(総議員の3分の2以上)
憲法審査会での審査を経て、衆参それぞれの本会議に付されます。
両院それぞれの総議員の3分の2以上が賛成して初めて、国会は憲法改正を「発議」できます。
この「3分の2」という数字は非常に高いハードルです。
現在の国会構成でも、発議には複数の政党の協力が不可欠。
これを「改憲を難しくしている仕組み」と見るか、「憲法の安定性を守る仕組み」と見るか——ここはなおじの勝手な読者への問いかけとして置いておきます。
③国民投票の実施(発議から60〜180日以内)
発議から60日以上180日以内の期日に、国民投票が実施されます。
投票用紙には「賛成」「反対」の文字が印刷されており、どちらかを○で囲む方式です。
👉関連記事②:国民投票法改正2026年|変更点と見送られたCM規制問題
④成立の基準:投票総数の過半数
賛成票が、投票総数(賛成票と反対票の合計)の2分の1を超えれば、憲法改正は承認されます。棄権や無効票は、この投票総数には含まれません。
国民投票法の改正の歴史|主な見直しと2026年改正案

国民投票法は2007年の制定後、投票年齢や投票環境を中心に見直しが行われてきました。2026年にも、投票・開票の環境整備に関する改正案が国会に提出されています。
ここでは、制度に影響する主な改正と現在の論点を整理します。
2007年:制定(第一次安倍政権)
2007年5月、第一次安倍晋三政権下で制定・公布。施行は2010年5月です。
ただし制定時から「積み残し課題」が多く、附則で3つの宿題が設定されました——投票権年齢の確定、公務員の政治的行為の制限、憲法改正以外のテーマの国民投票。
2014年:第一次改正(第二次安倍政権)
2014年6月、投票権年齢を「20歳以上」から**「18歳以上」**に引き下げることが確定。
与野党8党の賛成多数で成立しています。
2021年:第二次改正
駅や商業施設での「共通投票所」設置、洋上投票の対象拡大など、公職選挙法にすでに導入されていた7項目を国民投票にも適用する改正です。
このとき、立憲民主党が求めた「CM規制の附則」が盛り込まれました。
「3年以内に検討する」という文言でしたが、具体的な中身は先送り——この”宿題”が今も未解決のまま残っています。
👉関連記事②:国民投票法改正2026年|変更点と見送られたCM規制問題
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賛成・反対どちらの立場に立つにせよ、『制度そのもの』を
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2026年に国会へ提出された改正案
2026年には、国民投票の投票・開票環境を整えることを目的とした改正案が衆議院に提出されています。主な内容は、次の3点です。
| 改正項目 | 内容 |
|---|---|
| 開票立会人に関する規定の整備 | 開票立会人の選任に関する規定を見直し、開票事務を円滑に行えるようにする |
| 投票立会人の選任要件の緩和 | 投票立会人のなり手を確保するため、選任要件を見直す |
| FM放送の追加 | 国民投票広報で使うラジオ放送に、従来のAM放送に加えてFM放送を加える |
この改正案は、憲法改正の賛否そのものではなく、国民投票を実施する際の環境整備を主な目的としています。衆議院の法案情報で、条文と提出状況を確認できます。
一方、放送CMやインターネット広告の規制、資金力の差をどう扱うかは、この改正案とは別に検討が続く論点です。制度の利便性を整える議論と、投票運動の公正さを確保する議論は、分けて理解する必要があります。
👉関連記事:国民投票法改正2026年|変更点と見送られたCM規制問題 ②
「過半数」の計算方法と最低投票率問題

「賛成の過半数」は有効投票数ベースで計算される——これが日本の国民投票の特徴であり、最大の論点のひとつです。
数字で見てみましょう
仮に投票権者が1億人、投票率40%だったとすると:
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 投票数 | 4,000万票 |
| 無効票(仮定) | 100万票 |
| 有効投票数 | 3,900万票 |
| 過半数の基準 | 1,950万票超 |
この場合、賛成が1,951万票で成立します。
全有権者の約20%弱の賛成で憲法改正が可能——という計算です。

最低投票率規定がない問題
日本の国民投票法には最低投票率の規定がありません。
諸外国には、投票率や賛成票について一定の条件を設ける制度もあります。ただし、その条件は国ごと、また国民投票の対象や制度設計によっても異なります。
この点は、専門家や野党から長年批判されてきた論点です。
元教師として言わせてもらうと、これは「テストに最低合格ラインがない」に近い話。
「何点取ればOKか」が定まっていないまま実施に向けて準備が進む——正直、生徒に説明しろと言われたら困ります(笑)。
👉関連記事③:国民投票CM規制ゼロ|海外5か国比較と5年間の経緯
国民投票のCM・ネット広告規制は何が課題か

国民投票法をめぐる最大の未解決課題が、放送CM・インターネット広告の規制問題です。
現行ルールの「穴」
現行法では、投票期日前14日間はCMが禁止されます。
しかし最長180日に及ぶ投票運動期間のほとんどはCM規制がなく、資金力のある政党や団体が大量にCMを流せる状況が続いています。
民放連(日本民間放送連盟)は2018年9月、一律の量的自主規制は行わない方針を決定しました。
「放送局の自主規制に委ねる」という想定が崩れたことで、問題はより深刻になっています。
2021年改正後も残る検討課題
2021年の改正では、放送CMやインターネット広告の規制をめぐる検討課題が残されました。投票運動に使える資金の差が、有権者への情報提供や世論形成にどのような影響を与えるのか。これは、制度を実施する前に整理しておくべき論点です。
ただし、CM規制には「どこまでを広告とみなすのか」「ネット上の発信をどう扱うのか」「表現の自由とどう両立させるのか」といった難しさもあります。単に規制を強めれば解決する問題ではありません。
元教師として言えば、これは「試験のルールを、受験者が納得できる形で事前に定められているか」という問題に近いものです。賛成・反対の立場とは別に、どのような条件なら公正な判断ができるのかを考える必要があります。
👉関連記事③:国民投票CM規制ゼロ|海外5か国比較と5年間の経緯
国民投票法を正しく理解するために

国民投票法の仕組みは表面上はシンプルですが、その細部に民主主義の質が問われる論点が凝縮されています。
なぜ学校では詳しく教えないのか
現実的な理由があります。国民投票は、実際にはまだ一度も実施されていません。
手続きが整備されてきた歴史はありますが、制度が動いたことがない。
動いていない制度を詳しく教えることへのためらいは、正直わかります。
でも制度の細部を知らずにいることは、いざ投票が実施されたときの「情報格差」に直結します。
「知っている人と知らない人」の差が、一番大きく出るのが憲法改正の国民投票かもしれません。
クラスター記事へのご案内
この記事はピラー(全体像)として書いています。
より深く知りたい方は以下の関連記事もあわせてどうぞ。
👉関連記事②:国民投票法改正2026年|変更点と見送られたCM規制問題
よくある質問(Q&A)
Q 国民投票法はいつ施行されたのですか?
2007年5月に公布、2010年5月18日に施行されました。憲法公布(1946年)から実に60年以上、手続き法なしで来ていたことになります。制定時には附則で「積み残し課題」が3つ設定されており、その後の改正で順次対処されてきた経緯があります。
Q 国民投票と選挙の違いは何ですか?
選挙は「代表者を選ぶ」行為です。一方、国民投票は「特定の政策的問い(現行では憲法改正のみ)に直接賛否を示す」行為です。代表者を通じた間接民主主義とは異なる、直接民主主義的な仕組みといえます。投票方式も「候補者名や政党名を書く」ではなく「賛成または反対を○で囲む」という点が異なります。
Q CM規制問題はいつ解決するのですか?
2026年8月時点で、放送CMやインターネット広告をどのように規制するかについて、最終的な制度設計が確定したとはいえません。 論点は、資金力による情報量の格差をどう抑えるか、インターネット上の広告や発信をどこまで対象にするか、表現の自由とどう両立させるかにあります。 国民投票法の改正案には投票・開票環境の整備を扱うものがありますが、CM・ネット広告規制は別途検討が必要な課題です。最新の国会審議は、衆議院・参議院の議案情報で確認してください。
Q 最低投票率を設けている国はありますか?
はい。諸外国には、投票率や賛成票について一定の条件を設ける制度もあります。ただし、その条件は国ごと、また国民投票の対象や制度設計によっても異なります。 日本の国民投票法には最低投票率の規定がありません。そのため、投票率が低い場合でも、賛成票が投票総数(賛成票と反対票の合計)の2分の1を超えれば、憲法改正は承認される仕組みです。 最低投票率を設けるべきかどうかは、憲法改正の正当性に関わる論点として議論が続いています。詳しくは関連記事③で国別に整理しています。
Q 憲法改正以外のテーマで国民投票は行えますか?
現行の国民投票法は憲法改正のみを対象としています。道州制や原発政策など一般政策テーマへの国民投票(一般的国民投票)の導入は、2007年制定時の「積み残し課題」のひとつでしたが、現在も実現していません。
国民投票をさらに深く知るために
最低投票率やCM規制、海外の制度との違いについては、次の記事で詳しく整理しています。
👉関連記事③:国民投票CM規制ゼロ|海外5か国比較と5年間の経緯
📚 あわせて読みたい一冊
広告が憲法を殺す日 国民投票とプロパガンダCM(集英社新書)
「現行の国民投票法では、テレビCMなどの広告規制がほとんどないことが
どれだけ大きな問題になりうるのかを、広告業界の内側から詳しく告発している本です。
立場はかなり批判的ですが、『CMとお金の力が国民投票をどうゆがめるか』という
視点を知るうえでは、一読の価値があります。」

この記事の確認資料
e-Gov法令検索「日本国憲法」第96条
衆議院「日本国憲法の改正手続に関する法律」
総務省「国民投票制度についての紹介」
衆議院「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案」
最終確認日:2026年8月2日
筆者紹介|なおじ

なおじは元社会科教師として教育現場に35年間携わり、指導主事を5年、校長を11年務めました。退職後もボランティアで子どもたちに学習を教えています。
社会科教師として選挙啓発活動にも長く携わってきました。政治を「難しい」で終わらせない、しかし「簡単に割り切れない問題こそ丁寧に」という姿勢で書いています。