最終更新日:2026年6月17日
「憲法を変えるなら、国民が決める」——そう聞いたことがある方は多いと思います。
でも、「国民投票法の仕組みとは何か、実際どんな手続きで進むのか」を自分の言葉で説明できる人は意外と少ない。
国民投票は、日本でまだ一度も実施されていない制度です。
「存在するのに動いていない」——そんな制度を、私は教壇で何度も教えながら、なんとも複雑な気持ちになってきました。

こんにちは、なおじです。元社会科教師として選挙啓発活動に長く携わってきた立場から、この記事では国民投票法の仕組みをわかりやすく解説します。
読み終わるころには、「国民投票とは何か」が自分の言葉で説明できるようになるはずです。2026年の最新改正案の動向も含めてお届けします。
この記事でわかること
- 国民投票法とは何か・なぜ60年以上も手続き法がなかったのか
- 憲法改正の発議から投票・成立までの手続きの流れ(4ステップ)
- 賛成「過半数」はどう計算するのか・最低投票率問題の実態
- 国民投票法が3回改正されてきた経緯と2026年改正案(審議中)の内容
- CM規制問題がなぜ5年間解決しないのか
まず結論から答えます
Q1. 国民投票法とは何のための法律ですか?
憲法改正に必要な「国民投票」の手続きを定めた法律です。2007年に制定され、18歳以上の国民が憲法改正の最終判断を下す制度の根拠となっています。
Q2. 国民投票はどんな流れで行われますか?
国会が総議員の3分の2以上の賛成で憲法改正を発議し、その60〜180日以内に国民投票が実施されます。投票用紙の「賛成」か「反対」を○で囲む方式です。
Q3. 賛成「過半数」とは、どう計算するのですか?
有効投票数(賛成票+反対票の合計)の過半数です。棄権や無効票は分母に含まれません。「投票した人の中での多数決」という仕組みです。
国民投票法とは何か・なぜ必要な法律なのか

国民投票法とは、日本国憲法の改正手続きを定めた法律です。正式名称は「日本国憲法の改正手続に関する法律」といいます。
憲法96条が出発点
憲法96条には、「各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議し、国民投票で過半数の承認を得ること」と定められています。
国民投票法は、この96条のルールを具体的な手続きとして肉付けした法律です。
憲法は1946年に公布されました。にもかかわらず、改正手続きの具体的な法律が整備されたのは2007年——実に60年以上、手続き法なしで来ていたわけです。
ここ、突っ込みたくなりませんか?
「60年間、何かあったらどうするつもりだったんだ」と。
当然ながら、その間に改憲の発議が一度もなかったから成り立っていた話で、逆に言えば**「手続き法がないから発議もできない」という構造が改憲への高いハードルになっていた**面もあります。
「最終決定者は国民」という理念

国民投票法のもっとも重要な点は、憲法改正の最終決定権を国民に与えていることです。
国会がどれだけ賛成しても、国民投票で否決されれば改正はできません。
授業でこの話をすると、生徒たちは決まって驚いた顔をします。
「えっ、選挙に行かなくても憲法は変わるんじゃないの?」と。
そうではない。
選挙と別に、国民が直接判断する機会が設けられているのです。
投票権は満18歳以上の日本国民が持ちます。
国民投票の手続きの流れ・4ステップで整理

国民投票法の仕組みを理解するには、手続きの流れを順番に追うのが一番確実です。
①国会での原案提出と憲法審査会
衆議院では100人以上、参議院では50人以上の国会議員の賛成により、憲法改正の原案が提出されます。
まず各院の憲法審査会で審査が行われます。
②本会議での可決(総議員の3分の2以上)
憲法審査会での審査を経て、衆参それぞれの本会議に付されます。
両院それぞれの総議員の3分の2以上が賛成して初めて、国会は憲法改正を「発議」できます。
この「3分の2」という数字は非常に高いハードルです。
現在の国会構成でも、発議には複数の政党の協力が不可欠。
これを「改憲を難しくしている仕組み」と見るか、「憲法の安定性を守る仕組み」と見るか——ここはなおじの勝手な読者への問いかけとして置いておきます。
③国民投票の実施(発議から60〜180日以内)
発議から60日以上180日以内の期日に、国民投票が実施されます。
投票用紙には「賛成」「反対」の文字が印刷されており、どちらかを○で囲む方式です。
👉関連記事:国民投票法改正2026年|変更点と見送られたCM規制問題 ②
④成立の基準:有効投票の過半数
賛成票が有効投票数(賛成+反対)の過半数を超えれば、憲法改正は成立します。
棄権や無効票は分母に含まれない点に注意が必要です。
国民投票法の改正の歴史|3回の変遷と2026年改正案

国民投票法は制定以来、3度の改正を経ており、2026年現在は第4次改正案が審議中です。
各改正で何が変わったのかを整理します。
2007年:制定(第一次安倍政権)
2007年5月、第一次安倍晋三政権下で制定・公布。施行は2010年5月です。
ただし制定時から「積み残し課題」が多く、附則で3つの宿題が設定されました——投票権年齢の確定、公務員の政治的行為の制限、憲法改正以外のテーマの国民投票。
2014年:第一次改正(第二次安倍政権)
2014年6月、投票権年齢を「20歳以上」から**「18歳以上」**に引き下げることが確定。
与野党8党の賛成多数で成立しています。
2021年:第二次改正
駅や商業施設での「共通投票所」設置、洋上投票の対象拡大など、公職選挙法にすでに導入されていた7項目を国民投票にも適用する改正です。
このとき、立憲民主党が求めた「CM規制の附則」が盛り込まれました。
「3年以内に検討する」という文言でしたが、具体的な中身は先送り——この”宿題”が今も未解決のまま残っています。
👉関連記事:国民投票法改正2026年|変更点と見送られたCM規制問題 ②
📚 この問題を深く知りたい方に
国民投票の総て 増補 電子書籍版
「世界で2500件以上行われてきた国民投票の実例を通して、
日本の国民投票制度の課題や特徴を整理できる一冊です。
賛成・反対どちらの立場に立つにせよ、『制度そのもの』を
きちんと理解したい方におすすめします。」

2026年:第三次改正案(審議中)
2026年6月5日、自民・維新・国民民主・参政の4党が改正案を衆院に共同提出しました。
改正案の内容は3項目です。
| 改正項目 | 内容 |
|---|---|
| ①開票立会人の選任規定の整備 | 離島など悪天候時に現地で開票所を設置できるよう整備 |
| ②投票立会人の選任要件の緩和 | 居住地要件の緩和など、なり手確保のため公選法にそろえる |
| ③FM放送の追加 | FM放送設備を使った憲法改正案の広報放送を追加 |
6月11日に衆院憲法審査会で審議入りし、与党は来週中の採決を目指す方針とのことです。
一方、CM規制・ネット広告規制については、自民・新藤義孝氏が「速やかに検討し、必要な法制上の措置を講じるのが望ましい」と発言。しかし中道改革連合は「CM規制の議論とセットでなければ賛成しない」との立場を崩していません。
👉関連記事:国民投票法改正2026年|変更点と見送られたCM規制問題 ②
「過半数」の計算方法と最低投票率問題
「賛成の過半数」は有効投票数ベースで計算される——これが日本の国民投票の特徴であり、最大の論点のひとつです。
数字で見てみましょう
仮に投票権者が1億人、投票率40%だったとすると:
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 投票数 | 4,000万票 |
| 無効票(仮定) | 100万票 |
| 有効投票数 | 3,900万票 |
| 過半数の基準 | 1,950万票超 |
この場合、賛成が1,951万票で成立します。
全有権者の約20%弱の賛成で憲法改正が可能——という計算です。

最低投票率規定がない問題
日本の国民投票法には最低投票率の規定がありません。
諸外国では「有権者の過半数が投票しないと無効」という最低投票率を設けているケースも多い。
この点は、専門家や野党から長年批判されてきた論点です。
元教師として言わせてもらうと、これは「テストに最低合格ラインがない」に近い話。
「何点取ればOKか」が定まっていないまま実施に向けて準備が進む——正直、生徒に説明しろと言われたら困ります(笑)。
👉関連記事:国民投票CM規制ゼロ|海外5か国比較と5年間の経緯 ③
CM規制問題はなぜ5年間解決しないのか

国民投票法をめぐる最大の未解決課題が、放送CM・インターネット広告の規制問題です。
現行ルールの「穴」
現行法では、投票期日前14日間はCMが禁止されます。
しかし最長180日に及ぶ投票運動期間のほとんどはCM規制がなく、資金力のある政党や団体が大量にCMを流せる状況が続いています。
民放連(日本民間放送連盟)は2018年9月、一律の量的自主規制は行わない方針を決定しました。
「放送局の自主規制に委ねる」という想定が崩れたことで、問題はより深刻になっています。
2021年改正から「3年」が経過して
立憲民主党が2021年改正の条件として求めたCM規制の附則は、「3年以内に検討する」という文言でした。
その3年以上が経過し、2026年通常国会での議論が本格化しています。
自民党は規制強化に慎重。
中道改革連合は「CM規制の議論なしに他の改正を進めるべきではない」と主張しています。
元教師として言わせてもらうと、これは「テスト当日にルールを変える」に近い話です。
ルールが確定していないまま実施に向けて進んでいく——「民主主義の土台工事が未完成のまま使おうとしている」と言えなくもない。
なおじとしては、この問題の続報を引き続き追っていきます。
国民投票法を正しく理解するために

国民投票法の仕組みは表面上はシンプルですが、その細部に民主主義の質が問われる論点が凝縮されています。
なぜ学校では詳しく教えないのか
現実的な理由があります。国民投票は、実際にはまだ一度も実施されていません。
手続きが整備されてきた歴史はありますが、制度が動いたことがない。
動いていない制度を詳しく教えることへのためらいは、正直わかります。
でも制度の細部を知らずにいることは、いざ投票が実施されたときの「情報格差」に直結します。
「知っている人と知らない人」の差が、一番大きく出るのが憲法改正の国民投票かもしれません。
クラスター記事へのご案内
この記事はピラー(全体像)として書いています。
より深く知りたい方は以下の関連記事もあわせてどうぞ。
👉関連記事:国民投票法改正2026年|変更点と見送られたCM規制問題 ②
👉関連記事:国民投票CM規制ゼロ|海外5か国比較と5年間の経緯 ③
よくある質問(Q&A)
Q 国民投票法はいつ施行されたのですか?
2007年5月に公布、2010年5月18日に施行されました。憲法公布(1946年)から実に60年以上、手続き法なしで来ていたことになります。制定時には附則で「積み残し課題」が3つ設定されており、その後の改正で順次対処されてきた経緯があります。
Q 国民投票と選挙の違いは何ですか?
選挙は「代表者を選ぶ」行為です。一方、国民投票は「特定の政策的問い(現行では憲法改正のみ)に直接賛否を示す」行為です。代表者を通じた間接民主主義とは異なる、直接民主主義的な仕組みといえます。投票方式も「候補者名や政党名を書く」ではなく「賛成または反対を○で囲む」という点が異なります。
Q CM規制問題はいつ解決するのですか?
2026年6月時点では解決していません。自民・維新・国民民主・参政の4党が提出した2026年改正案には放送CM・ネット広告規制は含まれておらず、自民の新藤義孝氏が「速やかに法制措置を検討する」と発言する段階にとどまっています。中道改革連合はCM規制とセットでないと賛成しない姿勢を示しています。
Q 最低投票率を設けている国はありますか?
あります。デンマークやスウェーデンなどでは「有権者の一定割合以上が投票しなければ無効」とする最低投票率規定を設けています。日本の国民投票法にはこの規定がなく、極端に低い投票率でも成立する可能性がある点は長年批判されてきた論点です。詳しくは関連記事③をご覧ください。
Q 憲法改正以外のテーマで国民投票は行えますか?
現行の国民投票法は憲法改正のみを対象としています。道州制や原発政策など一般政策テーマへの国民投票(一般的国民投票)の導入は、2007年制定時の「積み残し課題」のひとつでしたが、現在も実現していません。
📚 あわせて読みたい一冊
広告が憲法を殺す日 国民投票とプロパガンダCM(集英社新書)
「現行の国民投票法では、テレビCMなどの広告規制がほとんどないことが
どれだけ大きな問題になりうるのかを、広告業界の内側から詳しく告発している本です。
立場はかなり批判的ですが、『CMとお金の力が国民投票をどうゆがめるか』という
視点を知るうえでは、一読の価値があります。」

筆者紹介|なおじ

なおじは元社会科教師として教育現場に35年間携わり、指導主事を5年、校長を11年務めました。退職後もボランティアで子どもたちに学習を教えています。
社会科教師として選挙啓発活動にも長く携わってきました。政治を「難しい」で終わらせない、しかし「簡単に割り切れない問題こそ丁寧に」という姿勢で書いています。